私のおすすめの本
4年間、不妊治療をして、子どもに恵まれなかった呉田俊貴と由依夫婦。
もうあきらめかけていた頃、俊貴が家に帰ると、八つ墓村を思わせるような格好をした由依が、陽性反応が出たと大騒ぎしていた。
そして、次の日には、散髪にいって紫色の坊主頭にしてくるし、しゃべり方も服装も以前の由依とは、すっかり変わってしまっていた。
月日がたち、心も体も母親になる準備ができていく由依と、なかなか父親になる心の準備ができない俊貴。
俊貴は、出産に立ち合い、無事に子どもが生まれると、育児休暇をもらい、2人で、お互いを思い合いながら、子どもを育てていく。
妊娠が分かって子どもが生まれた後も、由依は風貌やしゃべり方も変わらず、ぶっとんでいて、コメディータッチで書かれた小説だった。
また、出産するところでは、痛みが激しくなるところや初めて我が子を抱いたときのこととか、産後、家に帰ってからが大変だったこととか、共感するところもあったり、たくさん笑わせてもらった。
「深夜のスパチュラ」
こちらは、表題作のなかに収録されている短編で、2月13日と14日の2日間の話である。
学内の小規模飲み会で出会い、付き合い始めた可邪と羽久。
2月13日深夜、可邪は、バレンタインデーに羽久に渡すチョコをレートを作りはじめる。
そのレシピのなかに、「このときスパチュラを使います」と書かれている。
スパチュラって何? 初めてのチョコ作りで、深夜に大騒ぎ。
かわいい恋のお話だけど、可邪のお兄ちゃんがいい味を出していた。
ある日、ブログに「宣戦布告」の見出し。
SNSで誹謗中傷を繰り返した83人の個人情報を全て公開するという、なんとも物騒な文面から始まる。
お笑い芸人(天童ショージ)の不倫に対する執拗で攻撃的なSNSはやがて炎上し、天童を自ら死に至らしめている。
それより遡ること、才能ある女性歌手(奥田美月)は週刊誌の嘘の弾圧、誹謗中傷で姿を消していた。
83人の1人が名誉毀損(刑法230条)として損害賠償請求を訴える。
弁護士は何も語ろうとしない被告人・瀬尾の背景を探る。
瀬尾はその昔奥田美月の音楽プロデューサーだった。
瀬尾は美月の才能、存在を愛し、彼女のサクセスストーリーをともに上り詰めている。
そして、お笑い芸人天童ショージのことを陰ながら支えていた。
天童の死をきっかけに「宣戦布告」をしているが、辿れば美月に帰結する。
法廷の瀬尾は「ネットのインフラ化により、思考力が欠如し、瞬時に答えがわかる面白いものを優先し、間に合わせの正義感にかられ自分に親しいものだけを評価する」と語る。
作者は元新聞記者「罪の声」でも有名である。
本作にもいたたまれない環境の10代初期の美月を登場させている。
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